

代表自ら毎日乗って、その経験を製品化。次々と生まれるボアエースのヤマハSR用パーツ
取材協力:BORE-ACE:ボアエース
取材:小川 勤
掲載日:2023/12/25
登場から40年以上が経過し、2021年についに生産終了となったヤマハSR400。そんなSRに今も毎日乗ってパーツを研究&開発しているのが大阪のボアエース。同社の坂本秀之さん自らがSRユーザーとなり、SRユーザーは何が欲しいか?何を求めているか?どうしたらSRはもっと楽しくなるか?を考え続け、次々と製品を生み出している。
非常に多岐に渡るボアエース製品の開発エピソードを交えながら、坂本代表のSRへの向き合い方の一端をお伝えしたい。
SR用パーツを多数展開する大阪の『BORE-ACE:ボアエース』を訪問!
親子3代にわたる金属加工のプロがSR用パーツを制作
ボアエースのルーツとなる坂本製作所が、東大阪で70年ほど前にスタート。元々はボアを切削する刃物を制作していた。ボアとはエンジン内部のピストン摺動部分のことで、その当時、内燃機関用の切削刃物のジャンルでいちばんになるために命名された製品の名称が「ボアエース」だった。エンジン内部の加工はとてもシビアなクリアランスで加工されるのだが、その精密加工の技術をバイクパーツの開発製造に応用し、現在では3代目となる坂本秀之さんが社名を「ボアエース」と定め、SRを中心として様々なバイク用パーツを制作している。
坂本さんご自身が30年ほど毎日SRに乗り続け、その自らの経験を元にパーツを製品化しているという点は特筆に値するだろう。
かつての内燃機関関係の祖業から、現在では世界のSRユーザーに絶賛・信頼されるパーツメーカーに。代表の坂本さん自らによる日々絶え間なく繰り返されるR&Dが、他メーカーの製品開発と一線を画す。
とにかく走り込んで、理想のSRを追求し続ける
ボアエースの工場に入ると、1台のヤマハSR500が鎮座していた。各部にビレットパーツが装着されたこのSRは、ボアエースの坂本さんの愛車である。 「このSRには毎日乗っています。暑い日も寒い日も毎日です。そうやっていると無限にアイデアが出てくるんです」と坂本さん。その言葉は、坂本さんのSRを見ればすぐに納得できる。一見、様々なアフターパーツが装着されたカスタムSRだが、タイヤの減り方、飛び石による無数の傷、各パーツに蓄積された走行の軌跡が年季としてオーラを発している。ボアエースのデモ車ではあるものの、ピカピカに磨かれているわけではなく、そこには何度もR&Dを繰り返した、時の経過が刻まれている。
「あんまりキレイじゃないんで……」と坂本さんははにかみながら謙遜するが、足まわりは整備がしっかりと行き届いており、それが走りのSRを印象づける。ボアエースが最初に開発したSR用のパーツはアルミ削り出し製品が主だったが、走り込むほどにサスペンションなど、足まわりの部品にも着手。現在はアルミ削り出しのパーツに留まらず、坂本さんが毎日乗って導き出した様々なパーツが展開されている。
坂本さんがSRに求めるのは、安心感や安全性。そこを追求していくことで、結果的に速さを獲得している。坂本さんは安心して走りたい、転びたくない、と思いつつも、峠でビッグバイクに負けたくない……。そんな坂本さんの理想のSR像は、走り込むほどに進化し続けている。

坂本さんが毎日乗るSR500。エンジンはノーマルだが、「きちんと冷やす」ことで安定した性能を発揮。「ノーマルエンジンで速い」のが坂本さんの美学。自分の経験を製品化し、その効能や楽しさをユーザーに伝える物作りを貫く。

SRらしさを残したスタイリングで押し引きが軽く、跨るととてもコンパクトで、前後サスペンションがスッと沈み込むのも印象的。
とにかく冷やして熱ダレを防げば、いつでも速い!振動も軽減できる!
坂本さんのSRのエンジンはノーマルの500。色々とチューニングをしたこともあったが、ここに落ち着いた。エンジンの外観には冷却効率を上げるための無数のビレットパーツが装着される。またオイルラインを増やし、より効率的に冷やしたりフリクションロスを軽減する工夫もしている。SR400&500が登場したのは1978年。エンジンのベースはその前に登場したXT500だから基本設計は当然古い。しかし、坂本さんはノーマルエンジンで速く走りたいのだ。それには熱ダレをさせないことが必須だった。そこで、様々な場所にフィンを増設した。エンジン前部には数々のフィンに直接風を当て、エンジン後部にはダクトを使って風を導く。
エンジンを冷やすため、各所に様々なフィンを装着。ワッシャーを積み重ねたフィンが斬新。ドライサンプのSRはフレーム内にオイルを保留するため、フレームも冷やす。タペットカバーやオイルフィルターカバー、オイルフィラーキャップにも放熱効果を求めてフィンを刻む。
坂本さんが追求を重ねたSRは、多くのガソリンを吸入可能とし、それでも熱ダレを起こさないため、1日を通して速いのだという。少しスポーティに走ったり高速道路を長時間巡航したりすると熱ダレによるパワーダウンを感じたことのあるSRユーザーは多いはずだ。坂本さんはそれを見事に解消した。
「ツーリングの解散時にエンジンが温まっていても、去り際にカッコよく『バイバイ』ダッシュして帰りたいんです。熱ダレしてるからそこでパワーが出ない……なんて嫌なんです。あと、熱ダレを解消することでエンジンの振動も減りました。振動の根源は熱にあったんだと思います」と坂本さん。
クランクケースからヘッドに送るオイルを冷やすオイルクーラー。「ここで20度くらい下げて、油膜を飛ばしてやるんです」と坂本さん。
カムチェーンアジャスターのカバーからヘッドにブリーザーホースを連結。カムチェーンアジャスターのカバーの下にあるオイルラインの窓からは走行中にオイルが流れているのを見ることができる。
吸入効率を上げるための様々なパーツをラインナップ。ファンネルは特殊な形状(写真はプロトタイプ)だが、この細い隙間が、後ろに流れようとするエアを回収し、そのエアを加速させてエンジン内に導く。
「メインジェットが200番を超える常識がなかったんですが、エアがいくらでも入っていくので現在のメインジェットは290番。ここに気がつくのに5年ほどかかりましたね」と坂本さん。
ちなみにジェットニードルもニードル表のいちばん右上(最も燃料を供給できる)の物を使用している。サイレンサーはOUTEXにて何度も試作を繰り返したボアエースオリジナル。
SRのハンドリングを追求。とにかく柔らかい足まわりが良い!
しかし、吸排気をチューンして、熱ダレを解消すればSRで速さを得られるかというと、そうじゃない。そこで坂本さんはポジションや足まわりに着手し、ハンドリングも追求した。坂本さんが制作においていちばん苦労したというステップは、85-95年のSR400のステップ位置が基準。SRは年式によってステップ位置が異なるのだが、いわゆる純正バックステップの位置である。ここを起点にいくつかポジションを可変できる。ハンドルは少し低めのコンチハンドルとし、跨るととても自然で、リラックスできる。
ドラムブレーキはもちろん、ディスクブレーキ仕様への対応品も用意するステップ。逆チェンジ仕様や足の大きさなど様々なニーズに応える周辺部品のラインナップを誇る。サーキットでもテストを繰り返し、転倒する度に仕様を変更。
ステップバーはバレル研磨で表面硬度を上げ、ペダルの芯はテーパー仕上げで、転倒しても折れにくい設計に。
ステップの上部には車体のホールド性を向上させるパッドも装備。好みでパッドの厚みを変更できる。
元来フォーク内部にカートリッジを持たないSRのノーマルフォークは決して高性能ではないのだが、坂本さんのSRはとてもしっとりと動く。坂本さんは減衰力を変更するオリフィスとバルブ機構を独自に開発し、さらに専用のフォークスプリングも制作。ここにオイルや油面を吟味することでこの動きを手に入れた。
フロントフォークはノーマルをベースに中身をチューニング。シングルレートのスプリングと内部の減衰力を変化させるフォークアシストをセットにして製品化。
また、アルミ削り出しのステムはオフセットを35mmに設定。ノーマルより12mmほど短くし、トレールを稼ぐ。
タイヤサイズはフロントが110/90、リヤが130/80の18インチ。闇雲に太くしたり17インチ化せずに、SR本来のスポーツ性を最大限に引き出すチョイスだ。
リヤサスペンションはナイトロン製をベースにオリジナルのシングルレートスプリングを組み込む。車高アップキットを使えば20mm車高を上げることが可能。またレイダウン効果もあるため、サスペンションの動きも向上する。
リヤサスを伸ばし、フォークをセットアップ、タイヤやタイヤサイズの変更をすると、このオフセットを変更したステムがさらに生きてくるのだ。40年以上前に登場したSRのディメンジョンを現代のバイクやタイヤの性能に近づけ、スポーツ性を向上させる。
坂本さんが毎日走り続けて得たバランスがここにある。「何かアイデアが湧くとすぐに工場に来るんです。真夜中とか朝方でも……」と坂本さん。その積み重ねが信じられないほど多くのSR用パーツを誕生させた。
坂本さんの話を聞くと、すべてのパーツに意味があり、説得力があり、そして多大な愛情が注がれているのが伝わってくる。少しずつ試せるアイテムが多いのもボアエースのパーツの魅力。自分だけの理想のSRを思い描き、自分だけのオリジナルSRを追求する楽しさを多くの方に知っていただきたい。
リヤのキャリアやハンドルにスマホホルダーをマウントするステーなど、ユーティリティを向上させるアイテムも多数用意。

ボアエースの坂本さん。自らの経験を製品化するために毎日SRで生駒山を走る。
娘さんとサーキット走行を楽しんだりと、業務以外でも常にバイクに寄り添ったライフスタイル。
「ネガティブな面をなくすとバイクはもっと良くなるので、女性の方にも使って欲しいですね。例えばスロットルを軽くするだけで乗りやすくなったりするんです。そういった細かい積み重ねでバイクは変わります」
と坂本さん。
ボアエースのファクトリーでは様々な機械が稼働している。マシニングでアルミパーツを削っていくのだが、切削痕の残し方などにも坂本さんのこだわりが。

坂本さんは、新しいアイテムを生み出すだけでなく、すでに販売中のパーツも常にバージョンアップをしながら進化させている。
1978年に登場したヤマハSR400&500は日本車を代表するロングセラーモデル。2021年、生産終了になったけれど、実走行している台数はもちろん、中古車もとても多い。だからこそ様々なニーズがある。
ボアエースのパーツは、カスタム好きのSRユーザーがかなりの確率で目にしたことがあるはず。実は僕もSRに乗っているため、その存在をよく知っていた。しかし、今回初めてボアエースを訪れ、坂本さんの話を聞いて驚いたし嬉しかったのは、坂本さん自身が生粋のSR好きだったこと。
形だけのカスタムパーツはたくさんある。特にアルミ削り出しのパーツにはそういった物が少なくないのだが、ボアエースのパーツは坂本さんの愛情に溢れていた。工場にはいくつもの試作パーツがあり、日夜R&Dが行われているのがすぐに伝わってくる。
こんなにサスペンションの内部構造やキャスター/トレールなどのディメンションの話を、SRの専門ショップとしたことはなかったかも、とも思った。
SRをここまで育んだ坂本さんも凄いし、坂本さんをここまでのめり込ませるSRも改めて凄いなぁと思った。そして、まだまだSRカスタムは進化すると確信した1日だった。
ショップインフォメーション

BORE-ACE:ボアエース
〒577-0063
大阪府 東大阪市 川俣2-2-8
電話:06-4306-3922
営業時間:10:00-17:00
定休日:日曜日・祝日
HP : https://bore-ace.com/
生産終了になってもSRは進化していくと確信。