
ミドルクラスのスポーツツアラー「タイガースポーツ660」がマイナーチェンジして登場。エンジンや電子制御もアップグレードされ、さらに安全で快適、そしてライダーフレンドリーな万能マシンへと進化していた。
3気筒&等間隔爆発ならではのスムーズな走り
トライアンフのタイガースポーツ660は、2022年に登場したスポーツツアラーで、「トライデント660」をベースに開発されたモデルです。兄貴分の800とほぼ共通の車体にひと回り小さなエンジンを積み、ハーフカウルとアップライトなライディングポジションを採用。タイヤは前後17インチのオンロード仕様で、あくまで舗装路を軽快に楽しむためのツーリングモデルとして仕立てられています。
搭載される水冷並列3気筒659ccエンジンは、かつてのスーパースポーツ「デイトナ675」系をルーツに持ち、高回転での吹け上がりの鋭さと3気筒ならではのフラットなトルク特性を併せ持つユニット。不等間隔爆発のTプレーンを採用するオフロード志向の「タイガー」シリーズとは異なり、等間隔爆発のスムーズで透明感あるエキゾーストノートが特徴です。
最高出力は81ps/10,250rpm、最大トルク64Nm/6,250rpmと、数値上は特筆するものではないかもしれませんが、このクラスではトップレベルの性能。しかも車重は装備重量207kgと軽量(800は214kg)で、街中では800以上にヒラヒラと軽快な走りを見せてくれます。低中速域ではトルクの盛り上がりも明確で、スロットルレスポンスはリニアかつ滑らか。従来モデルからエンジンマップの見直しも行われており、穏やかで扱いやすい印象に仕上がっています。
スポーツモードでメリハリある走りが楽しめる
足まわりは前後SHOWA製でφ41mm倒立フロントフォークとリンク式モノショックの組み合わせ。前後ともにホイールトラベル150mmの“長足”設定とすることで、都市の段差やツーリング中の軽いギャップをしっかり吸収し、快適性とスポーツ性をバランス良く両立しています。NISSIN製の前後ブレーキはタッチ、制動力ともに優秀。新たにコーナリング対応のABSとトラコン、3種類のライディングモード(ロード/レイン/スポーツ)を投入するなど電子制御系も充実。スポーツモードが新たに加えられたことで、さらにメリハリのある走りが楽しめるようになりました。
車体ディメンションからもこのマシンの性格を読むことができます。ホイールベースはトライデント比で17mm延長され、キャスター角も立ち気味(23.1°)の設定より、直進安定性と軽快なハンドリングをうまく両立。アップライトなライディングポジションと広めのハンドルバーにより、ライダーの体格を問わず快適に走行できます。またシート高は835mmとやや高めながら、車体がスリムに絞られているため足つき性も良く、ツーリングでの疲労軽減にも寄与しています。
充実装備でコスパの高さも魅力
快適性に加え、実用装備も見逃せません。高さ調整可能な大型スクリーンは、高速走行時の風防効果が高く、燃料タンクは17Lと大容量で航続距離はおよそ350kmに達します。視認性に優れるTFTディスプレイはスマートフォン連携も可能で、ナビや音楽操作にも対応。さらに、マイナーチェンジ後はクイックシフターとクルーズコントロールが標準装備となり、長距離走行の快適性がより高まりました。パニアケースやトップボックスといったツーリングギアも豊富に用意され、積載力の拡張も容易です。
外装はデイトナやストリートトリプル譲りの洗練されたデザインを踏襲しつつ、ヘッドライトやラジエターシュラウドは800とは微妙に異なる個性を主張。フルLED灯火類も高級感があり、価格は110万円台と、欧州製バイクとしては驚くほどコストパフォーマンスに優れています。一方で、乗り心地ではサスペンションに調整機構が付いた兄貴分の800には一歩譲るところで、パワー的にも34psの差(800は115ps)はやはり感じました。
総じてタイガースポーツ660は親しみやすく、“日常から乗れるスポーツツアラー”というコンセプトを見事に体現した一台です。高性能ながら扱いやすく、豊富な装備と快適な足まわりを備え、街乗りからツーリングまで幅広く対応可能。安全性も進化しています。特に「初めての大型」「気負わず長距離を楽しみたい」そんなライダーにこそ強くおすすめできるモデルです。
スタイリング




走り





ライポジ&足着き



ワイドなハンドルバーが高めにセットされライダーは上体を起こしたリラックスした姿勢で乗ることができます。シート高は835mmとやや高めですが、サスペンションが沈み込むため足着きは良好。なお車体構成は800とほぼ同一ながらサスペンション設定や2次減速比の違いによりホイールベースやキャスター角には僅かな差異が見られます。ライダー身長は179cm。
ディテール

トライデント660シリーズと同じ、水冷3気筒DOHC4バルブ・排気量659ccのエンジンを搭載。低中速での力強さと高回転まで回る滑らかなパワーが特徴です。最高出力は60kW(82馬力)/10,250rpm、最大トルクは64Nm/6,250rpmを発揮。

800と比べてストローク(ピストンの動く距離)が短いため、シリンダー部分が少し短く、全体的にコンパクトな作り。フレームは800とほぼ同じで、スチール鋼管を使ったダイヤモンドフレームを採用しています。

フロント部分はシャープなデザインで精悍な印象です。左側がロービーム、右側がハイビームになっていて、ポジションライトも含めてすべてLED。なお、昼間に点灯するDRL(デイタイム・ランニング・ライト)の位置は800とは異なっています。

容量17Lの燃料タンクは800より1L小さめですが、満タンで約350km走行できるため、長距離ツーリングにも十分対応できます。

フロントブレーキはNISSIN製で、φ310mmのダブルディスクと2ピストンラジアルキャリパーを装備。また、コーナリング時にも対応するABSが搭載されています。

フロントサスペンションはSHOWA製のφ41mm倒立フォークを採用。調整機能はありませんが左右で役割を分けた最新のセパレートファンクションタイプです。前後ともにホイールが動く量(トラベル量)は150mmとたっぷりあります。

リアブレーキはφ255mmのシングルディスクで、シングルピストンの片押しキャリパーを採用。マフラーは800と異なり、車体の下にコンパクトに収まった超ショートタイプになっています。

リアサスペンションもSHOWA製で、伸びる方向の動きを調整できるリンク式のモノショックを採用。荷物や二人乗りにも対応できるよう、手で簡単に調整できるリモート油圧プリロードアジャスターが標準装備されているのは800と同様です。

内側のレバーを引くだけで、片手でも簡単に高さを調整できる大型のウインドスクリーン付き(8段階で調整可能)。なお、800にあったフロントカウル左右のディフレクターはこの660には付いていません。

テールまわりはすっきりとしたデザインで、しっかりとしたグラブバーや純正パニアケースを取り付けるためのソケットも装備されています。

モノクロ液晶のLCDメーターが組み込まれた多機能TFTディスプレイを採用。画面の上部には速度やエンジン回転数、燃料残量、ギアの位置などが表示され、TFT画面にはさまざまな情報や設定モードが表示されます。写真はスポーツモードを表示。

左手側のスイッチボックスで各種モードの切り替えや設定ができます。4方向の十字キーでTFT画面を操作し、下のモードスイッチを押すことで走行中でも簡単にライディングモードを切り替えられます。さらに「My Triumph コネクティビティシステム」を標準装備しナビや電話の操作も可能です。

スポーティな走りにも対応するため、ヒールプレート一体型のアルミ製ステップホルダーとフットペグを装備。また、シフトアップ・ダウンの両方に対応するクイックシフターも新たに標準装備されています。

タイヤは800と同じミシュランの全天候型スポーツツーリングタイヤ「ロード5」を標準装着。溝がすり減っても広がるように工夫された細かい溝(サイプテクノロジー)によってロングライフで高い性能を保ちます。
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