
【文:沼尾 宏明】
ビギナーの方でも「暖機運転」という言葉を聞いたことがあるはずです。
運転前に行うらしいけど本当に必要なのでしょうか?目的ややり方を含めて解説していきましょう。
目次
走行前にエンジンを暖めることが「暖機運転」
「暖機運転」とは、バイクで走り出す前にギヤをニュートラルに入れ、数分間アイドリングをしてから走ることです。
これはエンジンを暖め、エンジンオイルをエンジンの内部パーツに行き渡らせることが主な目的。エンジンが冷えてオイルが循環していない状態で、エンジンの回転数を上げてしまうと、ピストンやシリンダーといった金属の内部部品が摩耗し、エンジン不調の原因になります。これを繰り返していると、エンジン寿命が短くなってしまいます。
また一昔前のバイクは、キャブレターという部品でガソリンを霧のように吹き付けてエンジンに供給する仕組み。暖機運転をすることでスムーズにガソリンが霧化され、エンジンの回転が安定するのです。
特に気温が低いと空気の密度が高くなってガソリンの密度が薄くなり、エンジン内部でガソリンがうまく燃焼しません。バイクの車種や気温によっては、ギクシャクしたり、すぐエンジンが停まったりして、きちんと走れません。
だから暖機運転するのです。ただし、近頃はキャブに代わってFI(フューエルインジェクション)が一般的になりました。これは、今まで機械的にガソリンを吹き付けていたキャブに対し、電子制御でポンプから燃料を噴射するシステム。自動で最適な燃料を供給するため、キャブより安定したエンジン始動が可能です。
……ということは「FI車なら暖機運転は必要ない」と考えられますし、実際「不要」と唱える人もいます。しかしFIでもエンジンが冷え切った状態ではエンジンオイルが行き渡っていないので、できるなら暖機運転した方がいいでしょう。
また、夏や暖かい地域なら暖機運転は不要と思われる場合もありますが、夏でもガソリンや潤滑油を行き渡らせるため、暖機運転が必要です。冬の暖機運転よりも短時間のアイドリングで問題ありませんが、暖機運転をしておくことがオススメです。
[やり方]チョークを使ってアイドリング、目安は取扱説明書を見ましょう!
キャブレター車の暖機運転は次の手順で行います。
①チョークを引いて、エンジンを始動
②1000~1500回転ほどでアイドリング
③チョークをゆっくり戻す
「チョーク」とは、エンジンに送り込むガソリンの割合を濃くして、エンジン回転数を高めにする装置。これでエンジンが冷えていても停まらないで済みます。

チョークの設置場所は車種によって異なります。多くはハンドル付近にあります。写真はスイッチボックス内側のレバーがチョークです。

キャブを採用する愛車D-トラッカー(2006年型)はエンジンの左側にチョークがあります。ノブを引くタイプです。

近頃のFI採用車はチョークがありません。

チョークを引いたらエンジンを始動します。少し停止しただけでエンジンが冷えてない状態ならチョークは不要です。
必要な時間や終了する目安は車種によってまちまち。正解は取扱い説明書を見ることです。
一般的には数10秒~3分程度、アイドリングが安定するまで待ちます。あるいは「水温計が少し動くまで」「油温計が80度になるまで」とも言われています。しかし、その基準はバイクによって違うため、暖機運転のやり方や終了する判断は説明書を参考すべきでしょう。

一般的にはアイドリングが安定するまでが目安です
ただし、アイドリングできない状況であれば数10秒でもいい場合も。こうしたケースではエンジンを高回転まで回さずに走り、徐々に回転を上げて走行しながらエンジンを暖めていきましょう。。
逆に長時間のアイドリングはやめておきましょう。長くても3分程度と言われており、長すぎると逆にエンジンの負担になります。また、バッテリー上がりの原因やガソリンのムダ使いにもなってしまいます。
なお、チョークは引いたままにせず、戻すのを忘れないよう。忘れると濃いガソリンが送り続けられるため、スパークプラグが燃料まみれになります(これをプラグが“カブる”と言います)。結果、エンジンが停まってしまいます。
チョークを戻す際はグイッと一気に動かすと、急激にガソリンの割合が薄くなり、エンジン回転数が落ちるので、エンジンが停まる場合も。ゆっくりと動かしましょう。

冷却水で循環させることで熱を冷ます水冷エンジンには、水温計が設置されている車種も(最近は少なくなっています)。水温計があるなら、針が少し反応するまで暖機するのがセオリー

エンジンオイルの温度を計るのが油温計。適正油温は85~100℃未満で、乗車中の油音を把握でき、異常にも気がつきます。暖機は80℃が目安と言われています。純正で装着されているバイクは少なく、社外品を取り付ける必要があります。
「暖気」ではなく「暖機」運転を心掛けましょう
さらにコツとして、「暖気」運転、ではなく「暖機」を心掛けてください。勘違いしがちですが、エンジンを暖めるだけではなく、走り出したら、バイク全体を暖めることを意識しましょう。
特に冬場は、タイヤ、サス、ブレーキといった足まわりも動き始めは本来の性能を発揮できません。直線で車体を直立にした状態で、加速→ブレーキングを何度か行い、タイヤを揉むようにするとサスを含めて動きがよくなり、ブレーキにも熱が入ります。
もちろんライダーも走る前にストレッチするなどして「暖機」しておくと、スムーズにライディングできます。
愛車も重要だけど、周辺への騒音にも気を配りたい
暖機運転も大事なのですが、周辺環境への配慮も非常に重要です。早朝や深夜の住宅街では暖機運転のアイドリング音が迷惑になる可能性があります。暖機中は回転数を上げた状態になるので、車両によってはかなりうるさくなるケースも。
前述のように短めにアイドリングを切り上げ、徐々に回転数を上げながら走行するといいでしょう。もし近くに交通量の多い幹線道路がある場合は押し歩きして、そこで暖機するのも手です。
【まとめ】迷惑にならない、上手な暖機運転を
バイクの暖機運転は、キャブレター、FIを問わず、エンジンをいたわり、寿命を伸ばしてくれるもの。特にキャブの場合、暖機運転をしないとすぐエンジンが停止してしまう場合もあります。
アイドリングは長時間でなくてOK。数10秒~3分程度で十分ですが、取扱説明書に従うのが賢明です。アイドリングを行う際は、騒音が周囲の迷惑にならないよう配慮することも必要です。
ひとまず発進できるほど暖機して、走りながら徐々にエンジン回転を上げていく方法も覚えておきましょう。くれぐれもチョークを戻すことをお忘れなく!
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