ユーウツな雨を安全に乗り切る方法を教えて!【ライディング編】

【文:沼尾 宏明】

ライダーにとって「梅雨」は大敵。路面は滑りやすくなるわ、視界は悪くなるわでビギナーにとってライディングが怖くなるシーズンです。雨の中を走る時、どんな点に注意すれば安全に走れるのか、レクチャーしていきましょう。

キホンは「急」のつく操作をしないこと!

雨が降っていたらバイクに乗りたくなくなる……。それはごく当たり前の心理です。乗らないのも手ですが、どうしても出発しなくてはならない場合や、ツーリングなどの出先で降られるケースもあります。

雨の走りで気を付けたいポイントは色々ありますが、最も注意を払いたいのは路面が滑りやすいことです。そこで基本的なテクニックとして「急」のつく操作をしないのが肝心です。

つまり急加速、急ブレーキ(急なエンジンブレーキを含む)、急ハンドル、急旋回、急な体重移動などはNGということです。こうした「急」のつく操作をすると、タイヤがグリップせず、滑りやすくなります。

急のつく操作をしないためには、晴れの日より速度を落とし、車間距離を開ける、早め早めの操作をするなど、余裕のある運転をする必要があります。

急ブレーキや急なアクセルなど「急」のつく操作は厳禁です。


また、雨の日は制動距離が伸びがち。ブレーキのディスクローターに水滴がついたり、タイヤが雨でグリップを発揮しにくくなったりして、ブレーキがいつもより効きにくいのが原因です。

赤信号や一時停止で止まり切れずにオーバーし、ブレーキングしたまま停止線に乗ってしまうとスリップの危険性が高まります。晴れの日より早めにブレーキをかけ始めれば、停止線オーバーを回避できます。

なお、雨天走行は雨の降り始めが特にキケン。雨によって道路のホコリや油分、ゴミが浮き上がって滑りやすくなるからです。雨水がある程度溜まれば洗い流されますが、降り始めには特に用心して走りましょう。

ギヤを高めにすれば低回転でも滑らない!

慎重にアクセルを開けても、ギヤが2~3速では強い力がタイヤに伝わって滑りがちです。そこで雨の日は普段より高めのギヤを意識的に選ぶのがポイントです。

速度を落とし気味に走ると、つい低いギヤを選択してしまいますが、ギヤが高い方がアクセル開け始めの挙動が穏やかになり、低回転からアクセルを大きく開けてしまってもスリップしにくくなります

滑りやすいモノをなるべく踏まないで走る

特に滑りやすいのがマンホールや橋のつなぎ目などの鉄板、横断歩道やセンターラインほか路面のペイントです。摩擦係数が少なく、アスファルトより一段とタイヤがスリップしやすくなります。したがって、これらをなるべく踏まないように走るのがセオリーです。

鉄板やペイントはなるべく踏まないことが大事。


とはいえ、道路を横断している橋のジョイント部や工事現場の大きな鉄板などはどうしても踏まないと走れません。

こんな時は、事前に速度を落として車体を直立させた状態で進入します。車体がまっすぐ直立した状態とバイクを傾けた状態では、タイヤの接地面積がほぼ同じなので必ずしもバンクしている方が滑りやすいとは限りません(タイヤによっても違いはありますが)。とはいえ、直立状態だと例えスリップしても車体の動きに与える影響は少なく、車体を傾けた状態だと滑った時にバランスを崩しやすいのです。

さらに「アクションを起こさない」ことが重要。ブレーキをかけたり、アクセルの開け閉めをしない、車体を傾けたり起こそうとしないことです。この状態なら、滑りやすい鉄板やペイントを通過してもまず滑ることはないでしょう。

直前に鉄板を見つけて、慌ててブレーキをかけたり避けようとするのは非常に危険。ここでも前述の「余裕のある運転」が活きてきます。

交差点にあるマンホールを避けるライン取りを

特に街中に多いのがマンホールで、ほとんどの交差点に設置されています。「交差点」ということは曲がるために車体を傾ける必要があります。バンクした状態で鉄板のマンホールを踏むと滑って転倒のリスクが高まります。

ここでも「余裕のある運転」が大事です。交差点へ入る前にマンホールの位置を確認できるぐらいスピードを落とし、マンホールを避ける走行ラインを取ればいいのです。

やはりマンホールを避けようとして急動作するのは悪手。例え踏んだとしても、前述のように特別なアクションを起こさずにやりすごしましょう。

特に住宅街の交差点には必ずと言っていいほどマンホールが設置されています。


水たまりを避けて走ろう! 恐怖の「ハイドロプレーニング」って何?

大きな水たまりもなるべく避けて走りたいところです。クルマのタイヤによって凹んだ轍(ワダチ)に水がたまっていますが、これも避けたいところです。

見えない水の底に石などの障害物がある場合もありますし、もっと恐ろしい現象も。水たまりの上を走ると、タイヤの排水が間に合わず、地面とタイヤの間に水の膜ができ、バイクが水の上に浮いたような状態となる「ハイドロプレーニング現象」というものがあるのです。

こうなってしまうとブレーキやハンドル操作が利かず、タイヤもグリップしなくなってしまうので、まさに恐怖。特に高速道路で速度を上げた状態で発生する傾向にあります。過去には有名なレーシングライダーがこの現象に遭い、事故でシーズンを棒に振ったこともあるのです。

もしハイドロプレーニング現象に遭遇した場合は、焦らないことが重要。ゆっくりとアクセルを戻して、ハンドルを切ったりバイクを傾けりせず、タイヤがグリップを取り戻すまで待ちましょう。

走り出す前に、ウエット性能を上げるためのタイヤの溝が減っていないか、タイヤの空気圧が適正かをチェックするだけでハイドロプレーニングの発生確率を大きく下げられます。

走行中だけでなく、停まる時にも要注意

雨の日は走っている時だけではなく、停止する時も気を抜けません。晴れの時より足元も滑りやすくなります。可能な限り、前述したマンホールや鉄板のほか、側溝にある網状のフタを避けて停車しましょう。

足を着く際は、横方向に靴底を接地させるのではなく、垂直に降ろすのが大事。これなら滑りにくくなるハズです。

ABSやトラコンは雨の日の保険として重宝します!

バイク本体の電子制御は、雨の日に大きな味方になってくれます。

まずABS(アンチロックブレーキ)は、滑りやすい路面で強くブレーキングした際に作動し、タイヤがロックすることを防いでくれます。必ずしも制動距離が短くなるわけではありませんが、タイヤがロックしてスリップしたことによる転倒を避けられます。

ABSは2021年以降、126cc以上の新型バイクに装着が義務化されました。前後輪に装備されるのが一般的ですが、一部のスクーターなど、前輪のみにABSを装備したモデルもあります。なお、125cc以下はABSではなくても合法で、前後連動ブレーキ=CBSの装着が義務化されています。

そしてトラコン(トラクションコントロール)は、アクセルを開けた際、エンジンの出力をカットするなどして後輪がスリップするのを抑制してくれるシステム。近頃は、選択式のエンジンパワーモードを備える車種も増え、雨天走行用の「レインモード」があるモデルもあります

これはエンジンパワーを抑えるなど出力特性と連動して、雨でも安全に走れるモードとなっています。

ABSは雨の日の保険になります。

【まとめ】慣れれば雨でも走れる!

雨の日のライディングをまとめて解説しましたが、いかがだったでしょうか。晴れの日以上に慎重な走りが要求されますが、慣れれば雨でも問題なく走ることができます。

走り方も重要ですが、ライダーの快適性を左右する「装備」も同じぐらい重要です。これに関しては、また別記事でお送りできればと思います。くれぐれも雨の日を安全に走ってください。

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