【文:沼尾 宏明】
バイクの性格を決定付けるのがエンジン。Vツインも個性豊かなエンジンの一つです。一時期より減りましたが、まだまだ外国車ではラインナップ中。その長所と短所をレクチャーしましょう。
目次
ラインナップは減少中ながら、魅力はいっぱい
世のバイクは、並列2気筒が全盛。この20年でグッとモデル数が増えました。一方で、昔はかなり多かった「Vツイン」は減少の一途をたどっています。
Vツイン=V型2気筒とは、シリンダーがVの字に配置されたエンジン。同じ2気筒でも、並列(パラレル)や水平対向(ボクサー)よりも横幅がスリム。バンク角が稼げて、幅が狭いため軽快に車体を倒し込めます。
二つのシリンダーの開いた角度(バンク角)によって性格が異なります。また、一般的な横置きのほか、モトグッチのような縦置きもあります。元々は単気筒のクランクに2気筒分のピストンとコネクティングロッドを共有することで合理的に大排気量化する狙いがあったようです。
一方、デメリットとしては、エンジンの高さがある点、シリンダー間に熱が溜まりやすい、整備性が悪いなどの点が挙げられます。また、並列2気筒に比べて、シリンダーやカムシャフトなどの部品が並列2気筒の倍必要になり、コストがかかります。
Vツインエンジンは、二つのコンロッド+ピストンを、単気筒と同様一つのクランクシャフトやピンに連結しています
V型/L型エンジンのバイクを見る独特な鼓動感とトラクションが大きな魅力
そして何よりVツインエンジンの魅力は、独特な鼓動感にあります。
Vバンクが直角の「90度Vツイン」は、互いが互いのピストン運動による振動(一次振動、二次振動)を打ち消す上に、2つとも同じ軸にあり左右へ揺れる振動(一次偶力振動)も理論上は発生しません。
一方で爆発タイミングが均等ではない「不等間隔爆発」になるため、独特な鼓動感を発生。爆発の間隔が狭かったり、しばらく爆発しない間があったりします。これをまるで人間などの「心臓」に例える人もいます。
この鼓動感は低中回転域で顕著ですが、回転が高まると鼓動感が収束するフィーリングも愉快です(エンジンによって例外もあります)。
また、この不揃いな爆発はリニアにトルクが立ち上がり、後輪が路面を蹴るようなグリップ感が味わえます。なおVバンクが90度ではない、ハーレーの45度Vなどは振動を打ち消すことはできませんが、同様の不等間隔爆発となります。
近頃の並列2気筒でもクランクピンをズラした270度クランクがトレンドですが、これはV型2気筒と同様の不等間隔爆発とすることが主な目的と考えていいでしょう。
※画像:NC700X ホンダプレスインフォメーションより
画像は並列2気筒の爆発タイミングを説明していますが、Vツインの不等間隔爆発は上側の270度クランク並列2気筒と同様です。
V型/L型エンジンのバイクを見るVツインがアイデンティティの外国車メーカーを紹介!
ドゥカティ-DUCATI
ここからはVツインが得意なメーカーを紹介します。
まずはドゥカティ。近頃はV型4気筒が増えましたけど、元々は90度Vツインがシンボルで、現在も多くのモデルが存在します。
ドゥカティでは、90度Vツインを前傾させ、L字型に積むことで「Lツイン」と呼ばれます。これによってVツインの弱点である全長を抑えることが可能です。前側シリンダーを水平にできるため、やや重心を下げられるのもメリットです。
一方でフレームの構造や、吸排気管のレイアウトが特殊。設計が難しく、やはり整備性が悪化します。
現行モデルでは、パニガーレV2やスーパースポーツ950などトップエンド以外のスポーツモデルに搭載。また、モンスターやストリートファイターV2、スクランブラーシリーズといった実用性のあるストリート系に採用されています。
戦闘力の高いスーパーバイク系のLツイン最終型となった1299パニガーレ系の1285ccスーパークアドロエンジン。
1299系の車体はエアボックスを兼ねる前側のモノコックフレームで支える独特な構成でした。
空冷803ccLツインを搭載する、ネオクラシックのスクランブラーシリーズ。2023年型で最新の排ガス規制ユーロ5にも対応済みです。
ドゥカティのV型/L型エンジンのバイクを見るハーレーダビッドソン-Harley-Davidson
ハーレーダビッドソンは45度Vツインがシンボルで、現在も空冷OHV2バルブという昔ながらのメカを踏襲した「ミルウォーキーエイト」が主流です。しかし近頃は環境問題もあり、水冷ヘッドを用いた「ツインクールド ミルウォーキーエイト」が登場。さらに60度バンクのDOHC4バルブ水冷エンジン「レボリューションマックス」が2021年から投入されています。
45度や60度Vツインは、90度Vツインのように振動を完全に打ち消すことはできませんが、それが大きな味となっています。また伝統の45度Vツインは、エンジン上部にカムシャフトが存在せず、下部に重いクランク、広報に別体式のミッションがあるおかげで低重心。左右への動きは意外にも軽快です。
クルーザー系(旧ソフテイルファミリー)、グランドアメリカツーリング系(旧ツーリングファミリー)に搭載されるミルウォーキーエイト。排気量は1745cc、1868ccがあり、1923ccのミルウォーキーエイト117が最大です。
水冷60度Vツインの「レボリューションマックス」。1250cc版はハーレー初のアドベンチャーであるパンアメリカと、旧スポーツスター後継のナイトスターに搭載。ナイトスターには975cc版が採用されています。
ハーレーのV型/L型エンジンのバイクを見るモトグッチ-MOTO GUZZI
クランクシャフトを進行方向に対して縦(水平方向)に積むのが縦置きエンジン。シリンダーが左右にハミ出し、外観も独特となります。
この縦置き90度Vツインにこだわっているのがイタリアのモトグッチ。第二次大戦後から空冷縦置き90度Vツインを生産し続けています。90度Vなので振動を抑えられる上に、縦置きによってVツインのデメリットである前後長が抑えられます。
さらにクランクシャフトが回転する動きによって安定性がアップします(ジャイロ効果)。そのため直進安定性が優秀です。一方でアクセルを開けると縦方向のクランクシャフトが回転し、車体が傾く動きがあります。これが縦置きエンジンの味わいの一つでもあります。
ただし駆動系も90度横になってしまうので、チェーンドライブが採用しづらい、多くがシャフトドライブに。また、シリンダーが張り出しているため、転倒時にダメージを受けやすいのがデメリットです。
フロント側から見たモトグッチのOHV2バルブ縦置き90度空冷Vツイン。低回転域から低振動で素早く加速します。
現行のV7ストーン。左右に張り出したシリンダーが独特なフォルムを形成。ネオクラシックなバイクによく似合います。
モトグッチ100周年を祝うV100マンデッロ。同社初の水冷90度VツインでDOHC4バルブを採用します。
モトグッチのV型/L型エンジンのバイクを見るスズキ-SUZUKI
一方で国産のVツインは絶滅寸前です。現在、国内4メーカーでVツインの日本仕様を発売しているのはスズキのみ。645cc水冷90度VツインのSV650/Xをはじめ、共通エンジンを積むVストローム650/XT、1036ccのVストローム1050XTとなります。
650は低回転域からスムーズにトルクが立ち上がり、とにかくクセがありません。1050は鼓動感と扱いやすさを兼備し、いずれも評価が高いです。
Vストローム1050シリーズは、1036cc水冷90度V型2気筒DOHC4バルブエンジンを搭載するアドベンチャーモデル。1990年代末に登場したTL1000系の心臓部がベースです。
SV650。20年以上にわたって熟成されてきたDOHC4バルブの645cc水冷90度Vツインを搭載します。
国産のVツインと言えば、1980年代から登場したホンダのVT系エンジンがメジャーでしたが、2017年型のVTR(250)で生産終了を迎えました。またホンダのVTR1000シリーズ、ヤマハのドラッグスターシリーズなど多くのVツインモデルが存在したものの、いずれも絶版となっています。
Vツインが減少しているのは、並列2気筒よりコストがかかることが大きな理由と思われますが、独自のキャラクターを持つだけに今後も存続してほしいものです。
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