
【文:沼尾 宏明】
冬は何かとエンジンがかかりにくくなる季節。焦ったことのあるビギナーも多いことでしょう。そんな時の対処法を解説します!
目次
キャブレター車はチョークを使用、走る前に必ず戻そう
特にキャブレター車は、気温の低い冬にエンジンがかかりにくくなります。
「キャブレター」は空気圧を利用して霧吹きのようにガソリンを吹き付けるメカで、2000年代頃までのバイクに使われています。この年代の中古車を買ったビギナーの中には「春夏は大丈夫だったのに、冬になったらエンジンがかかりにくい」「すぐエンジンが止まってしまう」と感じているかもしれません。
これは自然な現象で、冬場は空気の密度が高くなります。そのため、エンジンの燃焼室に向かってキャブレターから吹き付けられる「混合気」のガソリン密度が低下。単純に言えば、空気に含まれるガソリンの量が少なくなり、上手くエンジン内で燃焼できなくなるというわけです。
こうした事態を解消するシステムが「チョーク」。このレバーを引くことで、ガソリンの濃度を一時的に濃くしてエンジンを始動しやすくします。
ハンドル手元のチョーク

ハンドル手元のチョーク

エンジン付近のキャブレターに設置されたチョーク
チョークを使ってエンジンがかかっても、アイドリングが安定するまで待ちましょう。すぐにチョークレバーを戻してしまうとエンジンが十分に暖まらず、すぐ止まってしまいます。
なお走る前にチョークレバーを必ず戻すことが重要。戻さないと混合気のガソリンが濃くなって燃焼しきれず、スパークプラグを濡らしてしまう「カブり」が起きてしまいます。カブるとエンジンが停止して、かかりにくくなってしまうので、くれぐれもご注意を。
近頃は自動でガソリン濃度を調整してくれるオートチョークのバイクが中心のため、チョーク非採用の車種が主流になっています。またキャブレターに代わり、インジェクション(電気ポンプで燃料を噴射するシステム)が主流となり、アイドリング時の空気流量を自動制御するシステムも登場しています。
寒さでバッテリーの性能が弱くなったら、充電!
冬場はバッテリーにもキビしい季節。セルが弱々しく、エンジンがかかりにくい場合は、バッテリーの容量不足が考えられます。
一般的なバッテリーは鉛の板とバッテリー液が化学反応を起こすことで、電気を発生する仕組み。化学反応は温度に左右され、バッテリー液の温度が25度の時はバッテリー容量が100%ありますが、0~10度になると容量が80~90%に減ってしまいます。
さらにバッテリーの化学反応が鈍くなると、充電効率も低下します。バイクには走行することで発電するジェネレーターと呼ばれる装置が使われており、これがバッテリーに充電される仕組みです。
ところが、バッテリー液の温度が低くなると、電気を貯め込む時の化学反応も鈍くなり、バッテリーが上がりやすくなります。
セルの「キュルキュル」という音が弱っていたり、勢いがないのは、バッテリーが弱っている証。その場合はバッテリー充電器で補充電しましょう。Webikeでも安い製品なら3000円前後から購入できるので、ライダーなら一つ持っていてもソンはありません。
バッテリーは、バイクから外して充電するのが基本。バッテリーを外す際は必ずマイナス端子(黒)から、次にプラス端子(赤)を外しましょう。バッテリーに充電器を接続する際は逆にプラス→マイナス端子の順番です。充電が終わり、バイクにバッテリーを装着する場合もプラス→マイナス端子の順になります。

充電器でバッテリーを充電。冬場に乗らない時は外しておくとバッテリーが上がりにくいです。
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なお、バッテリーが上がってしまい、充電器を持っていない場合、クルマ用などのブースターケーブルも使えます。これはバッテリーが元気な車両と、バッテリーが上がってしまったバイクをつなげて、緊急的にセルを回すという方法です。
始動できたからと言ってすぐにエンジンをOFFにするのではなく、そのまま30分以上走行するのがオススメ。これで弱っていたバッテリーに充電することが可能です。
ただし一度バッテリー上がりすると、バッテリーの性能は大幅にダウンしてしまいます。数日で再びバッテリーが上がってしまうなら、バッテリーの新品交換が必要でしょう。バッテリーの交換時期は一般的に3年程度です。それでも異常が解消できない場合、充電系にトラブルを抱えている可能性もあります。

バッテリーが元気なクルマやバイクから電気を流し、セルを回すことを「ジャンプスタート」と言います。
ケーブルは、バッテリーが上がった車両のプラス→救援車のプラス→救援車のマイナス→バッテリー上がりのマイナスの順番で接続します。
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セルが回らない時はキルスイッチ、ギヤ、スタンドをチェック
では、セルが全く回らない場合はどうしたらいいのでしょうか。
バッテリーが完全に上がってしまった場合もセルは動きませんが、まず確認したいのがエンジンストップスイッチ(キルスイッチ)。右ハンドルにあり、エンジンをオフにできるスイッチです。これがOFFになっていると、いくらセルスターターを押しても全く始動できません。意外にもこうしたミスはあるものです。

キルスイッチの形状は様々。なお、小排気量車にはキルスイッチのない車両もあります。
ギヤの状態も確認を。ギヤをニュートラルにして、クラッチレバーをしっかり握った状態でセルを回してみましょう。
一部の車種ではギヤがニュートラルに入っていないとセルが回らない場合があるからです。また、ニュートラルでもクラッチを切らないと始動できないモデルもあります。
これは急な飛び出しによる事故を防止することが目的。メーターでニュートラルランプが点灯していても、実際にはギヤが入っているケースがあり、この状態で始動するとバイクは前に飛び出してしまうことがあるからです。
そして、サイドスタンドの状態も要チェックです。サイドスタンドを出した状態だとエンジンがかからない車種も。また、エンジンは始動できてもサイドスタンドを出しっぱなしで走行すると、エンジンが止まる車両も多いです。サイドスタンドを払ってから、エンジンを始動してみましょう。

サイドスタンドの状態を判別するスイッチが付いているモデルも多いです。このスイッチが作動不良だと、発進しようとしてクラッチをつなぐとエンジンが止まってしまうケースも。
セルが動くなら、ガソリンの有無と燃料コックの位置をチェック
セルが回るのにエンジンがかからない場合、ガソリンがない「ガス欠」の可能性も。燃料計か、タンクキャップを開けて目視で残量を確認しましょう。
ちなみにエンジンがかからないのにセルを回し続けるとバッテリーがすぐ弱まってしまいます。5秒程度セルを回すと大幅に電圧が下がることを覚えておきましょう。
さらにキャブレター採用車は、燃料コックの状態をチェック。これがOFFになっているとガソリンがエンジンに供給されず、始動できません。
手動式(自然落下式)コックでは、ON、OFF(燃料ストップ)、RES(リザーブ=予備燃料への切り替え)を選べるレバーがあります。RESにした状態でガソリンを使い切ったケースも考えられます。

手動式コック。写真は'06年式D-トラッカー(カワサキ)で矢印の方向で状態を選べる。写真はRESで、左側がOFF、下側がON。各位置に向きをしっかり合わせるのが大事です。
一方、負圧式コックはOFFがなく、代わりに「PRI」(プライマリー)があります。負圧式の場合、エンジン停止時は燃料供給が自動的にストップし、エンジンがかかった際にガソリンが負圧で送り込まれる仕組み。「PRI」にすると停止時でも自然落下式と同様、燃料が流れます。

負圧式コックにはOFFがありません。
【まとめ】意外と簡単な見落としも多い、それでもダメならプロの診断を
ビギナーにとって、簡単な見落としや勘違いでエンジンがかからないケースはよくあります。特にキャブレター車、バッテリー関連は冬場が苦手です。今回紹介したポイントをチェックしてみても始動できなかった場合、他の問題があるかもしれません。無理せずショップにおまかせするといいでしょう。
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